ディーラー整備の“本質”が失われている
自動車ディーラーの整備現場は、ここ10〜20年で大きく変わりました。
特に顕著なのは、整備士に対する★「売上ノルマ」「付帯整備の強制」★プレッシャーが強まり、現場が疲弊している点である。
本来、整備士の使命は
「クルマの安全を守り、ユーザーの安心をつくること」
であるはず。
しかし現場では次のような声が増えています。
• 「点検来店数のノルマが毎月押し付けられる」
• 「付帯整備を取らないと評価が下がる」
• 「お客様の誘導に整備士まで動員される」
• 「技術より“売上”で整備士の価値が決まる」
これらは、ディーラー業界全体が抱える構造的な問題。
この記事では、30年整備士として働いてきた筆者の視点から、ディーラーで起きている“本質のズレ”を明確にしつつ、
• なぜ整備士の技術が正しく評価されないのか
• なぜ粗利評価が整備品質を下げるのか
• お客様の信頼を守るために必要な改善点
• ディーラー整備が失った「安心」という価値とは何か
• これからの整備士が身につけるべきスキルとキャリア戦略
について、専門家として深く掘り下げていきたいと思います。
1:ディーラー整備士の不満と“年収が上がらない”構造的理由
ディーラー整備士は、高い技術と知識を持ちながら、
年収が上がりにくい職種の代表格。
なぜか?
理由は明確で、ディーラーが整備士を技術職ではなく営業職として扱い始めたからだと確信します。
■ 1-1. 評価基準が「粗利」「付帯整備」に偏りすぎている
多くのディーラーでは、整備士の評価基準が
• 付帯整備の売上
• 粗利率
• 点検入庫台数
• 誘導の件数
• 次回予約率
などになってしまっています。
これらは本来営業職のKPIであり、整備士の本来の技術力を測る指標ではありません。
しかし、企業側からすると
• 付帯整備は利益率が高い
• 点検予約は販売部門にもメリットがある
• 数字管理がしやすい
という理由で、整備士を“半営業職”のように扱ってしまっています。
この結果、本来あるべき技術力評価が機能していません。
(関連記事 → 車検見積りの基礎知識:ぼったくりを防ぐポイント)
■ 1-2. 会議が「報告会」で終わり、現場の知恵が共有されない
本来、整備士会議は
「現場の課題」→「改善案」→「全体最適」
を話すための場である。
しかし多くの店舗では、
• 売上・粗利の報告
• KPIの達成状況
• 付帯整備の一覧
• 次月の販売施策
といった、営業よりの内容の共有だけで終わっています。
その結果として、
• 再発防止策
• クレーム削減
• 時間短縮の技術
• 整備品質の向上
• ヒヤリハット情報
といった、現場の“本物の改善”が日の目を見ない。
整備士全員が持っているはずの現場知見が埋もれています。
(関連記事 → ドア内側の白い汚れの原因と対策)
■ 1-3. 整備士の「技術」と「安全への貢献」は数字化されていない
企業に評価されるには“数字化”が必要です。
しかし整備士の技術は数字化が難しい。
例えば、以下のような価値は会社に見えにくい。
• クレームゼロの点検技術
• 故障の早期発見
• 部品交換の正確さ
• お客様への正確な説明
• 若手の育成
• 作業時間の短縮
• 過剰提案をしない誠実さ
これらは本来、
ディーラーにとって利益そのもの なのです。
しかし、粗利という数字では表しにくい。
そのため、評価の対象になりにくい。
これが、整備士が「技術職として正当に評価されない」根本理由だと感じています。
2:ディーラー整備の“狂い始めた歯車”と、お客様が抱える不信感
現在、ユーザー側もディーラー整備に疑問を抱き始めていると思います。
「点検で毎回追加整備を言われる」
「車検の見積もりが高すぎる」
「本当に必要な作業なのか分からない」
「営業みたいな整備士が増えた」
これらの声は、年々増加しているのです。
■ 2-1. “売上優先”の空気が、お客様の信頼を削っている
ディーラーが売上重視になればなるほど、整備士には次のような行動が求められるようになります。
• 必要性の薄い付帯整備の提案
• 部品交換の早期案内
• 「念のための交換」を勧める
• 高利益メニューの優先提案
• トルクレンチより営業トークを優先させる空気感
これらは、短期的には利益を生むでしょう。
しかし長期的にはユーザーの信頼を確実に蝕んでいく。
なぜなら、ユーザーは気づいているはず。
「毎回、何かしら交換をすすめられてる気がする…」と。
(関連記事 → ディーラー点検が高い理由と不信感の正体)
3:ディーラー整備士が本当に守っている“3つの優先順位”
ディーラー整備士は「売上より安心が最優先」と言われることが多いですが、実際の現場でもその通りです。
整備士として30年間働いてきた経験から、ディーラー整備の仕事には次の 3つの優先順位 が存在します。
■3-1. 安全性の確保
最も優先されるのは、お客様の安全性です。
ブレーキ・タイヤ・ステアリングなどの“命に関わる部品”には絶対に妥協しない。
売上にならなくても、必要な交換は必ず伝える。それが整備士の使命です。
■3-2.故障リスクの排除
次に優先されるのは、今後の故障リスクを減らす提案です。
・消耗部品の早期交換
・不具合の予兆を見逃さない診断
・適切なメンテナンスサイクルの提案
これらは「安心して車に乗り続けてもらう」ために欠かせません。
■3-3.お客様の生活スタイルに合わせた整備
車の使い方は人によって異なります。
年間1万km以上走る人もいれば、月に数回しか運転しない人もいる。
そのため整備士は、
「そのお客様にとって本当に必要な整備は何か?」
を考えて判断します。
結果として、売上は“後からついてくるもの”であり、決して最優先ではないのです。
4:「粗利優先の説明」が生まれる理由
ディーラーは営利企業なので、売上目標が存在します。営業もサービスもそれは同じです。
整備士は本来、その板挟みの中心に立つべきではありません。
しかし現実には、粗利を気にした説明が生まれてしまいます。
理由は次の通りです。
● 現場の人員不足
整備士が減り続けている現在、1人あたりの作業量は増えています。
そのため「効率の良い整備」が求められ、結果として売上を意識せざるを得ない状況が生まれています。
● メーカー・本部からの数値管理
メーカーや本部は「車検・点検入庫率」「部品販売率」などの数字を管理したがります。
店舗ごとに成績が競われるため、現場にもプレッシャーが降りてくるのです。
● 経営側と現場側の価値観のズレ
経営側は「利益を確保すること」を重視します。
一方、整備士は「安全・品質」を重視するのです。
この価値観の違いから、説明の姿勢がぶれてしまうのだと思います。
5:お客様にとってベストな整備とは何か?
本来のディーラー整備は、以下の条件を満たして初めて価値を持ちます。
● 車の状態を正しく判断できる
最新の診断機やテスターを用いて、見た目ではわからない異常も把握する。
● 整備の“優先順位”を明確にできる
・今すぐ必要な整備
・半年後でもOKな整備
・次回点検で良い整備
これらを明確に伝えることが、安心につながります。
● お客様の生活スタイルに合わせて提案できる
提案は画一的ではなく、個別の使い方に合わせる必要があります。
6:「安心を売る」ために必要な4つの改革
整備士が安心を届けるためには、以下の改革が求められます。
① 作業量の最適化
整備士1人あたりの負荷を減らすことで、焦りやミスを防ぐ。
② 納得感のある整備説明の標準化
「交換が必要な理由」「しないとどうなるか」を誰でもわかる言葉で統一する。
③ お客様とのコミュニケーション強化
担当整備士制度や事前ヒアリングの充実により、信頼関係が深まる。
④ メーカー・本部と現場の情報共有
現場の声を上層部に届け、数字偏重の運営を見直すことが重要である。
7:ディーラー整備を選ぶ理由
ユーザーがディーラーを選ぶ理由には、以下の価値がある。
● 専門性と設備
メーカーに精通した整備士がいるため、車の癖を理解している。
● 純正部品の品質
耐久性・動作保証が高く、不具合リスクが少ない。
● 保証修理に対応
メーカー保証・延長保証を活用できるメリットは大きい。
8:お客様が「安心できる整備」を受ける方法
信頼できる整備を受けるには、以下のポイントを押さえると良いと思います。
● 事前に質問する
「どの作業が最優先ですか?」
「交換しないとどうなるのですか?」
この2つを聞くだけで説明の質が大きく変わる。
● 整備履歴を保存する
メモアプリで管理しておくと、整備の無駄がなくなる。
● 担当整備士を固定する
担当者が変わると判断がズレるため、同じ整備士に見てもらうのが理想です。
9:今後のディーラー整備に求められるもの
車が複雑化し、EV化が進む中で、ディーラー整備士の重要性はますます高まる一方です。
しかし同時に、整備士不足・粗利プレッシャー・作業量増加といった課題も深刻化しています。
今後求められるのは、
「数字ではなく、お客様の安心を軸にした整備」
と確信します。
<関連記事リンク(内部リンク案)>
・【参考】車検で本当に必要な整備とは?
・【参考】6ヶ月点検がなくなる?|そこに隠された意外な事実!?
今回の記事では「整備士が粗利より安心を優先すべき理由」を解説しましたが、車の維持にはまだまだ知られていないポイントが多く存在します。
以下の記事では、より具体的な整備の判断基準や車検の真実、メンテナンスの基本を初心者向けにわかりやすくまとめています。
気になる方はぜひあわせて読んでみてください。



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